2017.8.29 Market Information

10年で何と500倍!アート投資のススメ

絵画投資

バブル後の今、投資としてのアートを考える

世界的な金融危機を受けて、高値に沸いた欧米の現代アートオークションに陰りが見え、本来の目利きの世界に回帰しつつあるという報道があります。現実的には極度な熱狂からようやく平常に戻ったという印象です。

最近、関係者に聞いてみると海外で開催されたオークションでは、価格が高騰する落札ケースは減ったものの、「エスティメイト」という、オークション会社が査定した価格で購入しているケースや、落札されなかった作品でもオークション直後に、持ち主と協議をしてエスティメイトより安い価格で購入というケースが増えているそうです。

その意味では、狂騒のオークションが一段落し、逆に正当な価格で作品を手に入れるチャンスが来ていて、投資価値はそのまま変化していないと言えそうです。

過去のアートバブルと言われた90年代のルノワールやゴッホといった億単位の名画が最終的に日本からヨーロッパのコレクターへ戻っていき、カシニョールやブラジリエのリトグラフがほとんどが死蔵されています。

こうした点も踏まえて、投資としてのアートを考える時のポイントを考えてみたいと思います。

日本アート、現代アートのススメ

私は欧米の作品より日本のアート、それも現代アートを勧めたいと思います。

1つには、日本の現代アートは「産地直送」であること、です。制作のもっとも近い場所にいることはコレクターにとって有利であり、大作でも海外から運ぶより割安です。

2つ目は、日本の現代アートはまだ世界市場で流通し始めたばかりという新顔だということです。それは一見、デメリットのように感じるかもしれませんが、中国に続いてアジアでの新たな才能の発掘が進んでおり、可能性が大きいのです。

3つめは、本当に魅力的でおそらく将来性がある作品が、まだ一握りのコレクターの間でしか知られていない、という点です。評価が定まった作品にしか手を出さない保守的なコレクターは、海外のアーティストの作品を手にして満足していますが、実は宝石の原石たるアーティストが身近にいることに気づいていないのです。

日本現代アートの価格の変遷

日本の現代アート作品のいくつかの価格の変遷を1996年頃と現在と比較して見てみましょう。

一番、有名な例は、奈良美智さんの作品です。

1996年に小山登美夫ギャラリーで絵本の原画展を行いました。同じ頃、名古屋のギャラリーで見た奈良さんの初期のドローイング作品は確か、1点がわずか5000円くらいだったと記憶しています。

今、その原画はいくらでしょうか。もちろん作品によるのですが、ウェブギャラリーのタグボートの価格によれば、奈良さんのドローイングの標準的価格は30万円~70万円くらいのようです。つまり、上昇率は12年間で60倍から140倍となっています。

自分自身が古今東西の名画になりきってしまう作風で世界に認められている森村泰昌さんの作品はどうでしょうか?

やはり96年頃、55万円であった作品は、現在、250万円から370万円くらいがオークションのエスティメイトになっているようです。5倍から7倍です。奈良さんほど値上がりが極端ではないのですが、それは96年当時から森村泰昌さんが世界的に活躍し、既に評価が高かったから、です。

次に最近世界的に話題を提供している、村上隆さんを見てみましょう。

やはり96年に村上さんが小山登美夫ギャラリーで個展をした頃、作品の価格は20万円から40万円くらいだったと記憶しています。最新の彼の新作絵画は1億円ですので、250倍から500倍に上昇したことになりますね。

日本の若手アーティストは格安!

現在、世界的な人気のある3名のアーティストの例を取り上げましたが、彼らのように世界で評価されるところまで至っていなくとも、実は日本の現代アーティストの作品というのは、若手を含めて非常にクオリティーが高いと思っています。

つまり、価格は格安なのです。

例えば、1つの絵画作品の制作を考えてみましょう。1点の絵画を完成させるためには、2か月から3か月かかります。極端な話ですが、アルバイトの時給に換算して計算してみると普通、50万~60万円にはなると思います。

しかし、東京芸大等の美術大学出身の若手アーティストが、その労力と精神力を制作に注ぎ込んだ、その価格が現実的にはまだ15万円から30万円なのです。ただ、無名というだけで、です。

確かに村上隆さんのように500倍というような価格上昇は稀なことです。しかし、若いアーティストが作りだす、現代アート作品は期間の長短はありますが、たいていの場合、価格は右肩上がりになります

アーティストの作品は、個展を繰り返しながら価格が少しずつ上がっていきます。作品のファンを少しずつ少しずつ増やして、売れてゆく。その都度、個展での評価は価格に反映され、ギャラリーは前回作品を買ってくださった顧客のためにも、少しだけ値段を上げるのです。

価格が下がることはある?

価格が下がることがあるとすれば、アーティストが創作活動を辞めてしまった時、それから大胆に作風が変化し、変化したあとの作品に人気が集中した場合に、初期の作品の評価が下がることがあると思います。

また、残酷な現実ですが、アーティストの人生の最後の時が来て、天に召された時、そのアーティストの生涯で作られた作品数が限定されます。そしてアーティストの再評価が始まるのです。

死後の再評価

アーティストの生涯の中には劇的な人生も少なくないし、物語が作られていきます。その物語によっては、より悲劇的に、劇的な人生が語られ(いや、創られて?)、伝説化し、作品そのものはどんどん価格が上がって行く、というのが本当に皮肉なアーティスト達の人生なのです。

1958年、ジャック・ベッケル監督の映画「モンパルナスの灯」というモディリアーニを主人公にした映画では、当時の女性ファンを涙させた美男子のジェラール・フィリップがモディリアーニに扮していますが、最後に彼の死を知った画商が、まっさきに彼のアトリエに急ぐシーンで終わります。

誰にも渡さずに商売をしよう、というわけです。それから先のことは、画商がプロデュースしてゆく形で、限定作品となったものを管理しつつ、世の中に出していきます。

皮肉なことに、生前、アーティストが不幸であればあるほど、アーティストの人生が伝説化し、価格が上昇していくことが多いです。

現在、一部の熱狂的なファンを持つ石田徹也などは、その典型的な例でしょう。でも生きている間に評価されず、死んでしまってからどんなに拍手喝采されても何の足しにもなりません。

日本人若手アーティストを応援しよう!

私が「現代アートのチアリーダー」を自称してアーティストを応援しているのも、生きている間にたくさんの喝采を、地道な努力を狭いアトリエで続けているアーティスト達に届けたいからなのです。

現代アートを買う時は、まずはお気に入りの作品を手に入れていただくのが一番ですが、その中に将来有望な日本人アーティストの作品がはいっているとなお嬉しいですよね。まだ評価が確定していないアーティストのものであっても「日本人アーティストの作品を日本人である自分が応援しなかったら誰が応援するのだ」というくらいの心意気で。

現代アートの人気が世界的に上昇し、日本のアーティストの中にも注目が集まっている中、作品の知名度や人気が上がり、最終的にはコレクションした皆さんの投資のリターンとなって戻ってくる確率は高いと思います。

(文:山口裕美)

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